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2018年3月11日 (日)

旅立ち。

さいごにタクミと会ったのは父が亡くなる直前だったから、1年半くらい前だと思う。そんなタクミがこの度レスリングが有名な大学への進学が決まり、寮に入るというので見送りに行くことにした。1年半ぶりに会った彼は、背も伸びてひとまわりガッチリして筋肉ムキムキマンという感じだった。紙袋いっぱいに入っていたプロテインを見たら納得という感じ。
名古屋駅で待ち合わせしてお弁当を買い込んで新幹線に乗り込む。タクミが小さい頃、千葉の実家に帰るときのシチュエーションとまったく同じ。タクミは決まって窓際の席。こどもたちが小さい頃は、3人席にこども3人と私とで4人でぎゅうぎゅうになって座っていたものだ。ケンカしながらだったけれど、これはこれで楽しかった。そんな騒がしい中で母ちゃんだけは勝手にビール片手におつまみ食べていたりして、当時からダメ母ちゃんの図、さく裂でした…。
そんなことがついこの前の出来事のように思っていたけれど、隣に座るタクミはもう立派な青年だ。3人の中で一番泣き虫だったタクミがいまや日本を背負うレスリング選手になろうとしているとは。
東京駅から池袋まで出てそこから東武東上線に乗る。池袋といえばかつて高校大学と7年間通った懐かしの場所でもあるし、東上線の成増という駅には毎週通っていた声楽の先生のお宅もあった。なんとなくぼんやりと思い出す景色はあったけれど、20数年の歳月というのがいろんなものをぼかしてしまっている気がした。でもこの場所に重たい鞄を背負って毎週通ったという事実だけは変えられない思い出。今回の遠征は自分の思い出も辿るという意味もあったみたいだ。
成増よりもさらに奥にタクミの学生寮はあった。名古屋から4時間、やっと到着。駅から一緒にてくてく歩いた。タクミは以前に合宿で来たことがあるというのでそのへんは安心だった。まったく知らない場所にいきなり連れてこられて今日からここで生活するぞ、というのとはわけが違う。
タクミに案内されて入った合宿部屋は、テレビとか漫画で見るような体育会系男子臭プンプンの部屋だった。はっきりいって汚いし畳もぼろぼろだし、トイレもとてもきれいとはいえない。天井にはりめぐらされていたくたびれたロープはきっと洗濯物を干すためのものだろう。底冷えしてとにかく寒い。置いてあったエアコンのリモコンの設定温度が30度になっていたから、たぶんそういうことなんだろう。
こんなところで生活していくんだと思ったら、なんだかかわいそうにも思えたけれど、だぶんそれって違うんだと思った。耐えるしかないし、こういう経験もしなきゃいないないんだよなきっと。
時計はすでに16時を指していた。平日ということもあって私は戻って仕事をしなければならないし、万が一仕事をおやすみにしたとしても、翌朝のお弁当の仕事が入っている。なにがなんでも今日中に帰らなきゃいけないという義務感が先立って心もちあせった。それでも集合時間まであと5時間もあるタクミが、この広くて寒い部屋の中でひとりでぽつんといることを思ったらいてもたってもいられなかった。
「ちょっとだけ駅前でお茶しようか」と誘った。再び来た道を戻りファミレスの明かりを見つけた。
ドリンク飲み放題のそのお店でタクミはコーラとかメロンソーダとか、相変わらずこどもっぽい飲みものばかり飲んでいて、母ちゃんはそんなタクミにチョコレートケーキ頼んであげちゃう始末。目の前にいる息子にしてあげられることなんて、こんなことくらいしかないもの。
とくべつな会話はなかったけれど、ここで1時間くらいまったり過ごしたところでエイっと心を決めて「帰るね」って告げた。お店を出てすぐのところで、駅への道と寮の道と分かれてしまう、切ない…。「じゃぁね、カラダ気をつけてね」とかしか言えないダメな母親だった。こちらのほうが先に信号が青に変わったので先に歩き出さなければならなくて。振り返ろうと思ったけれど、苦しくなってしまいそうなのでそのまま前だけ見てずんずん駅を目指した。
帰りに切符がひとり分で寂しかったし、我慢している気持ちが外に出てきてしまっては大変なので、大きなマスクをしてごまかした。風邪をひいていたし、ちょうどよかった。
帰りの電車の中で、いろんなことを思った。もし息子たちと離れることなく過ごしていたとしてこの状況を迎えたらやはり今と同じ気持ちになるのだろうか。離れてしまったからこそ、私の知らない時間を過ごしていた息子を愛おしく色濃く思うのだろうか。
いろいろ考えてみた結果、母親が子を愛する気持ちは、おそらくどんな状況においても変わらないんだと思った。ただ自分のような罪人はそれを堂々と公言はできないけれど。
それでも…私の中にある息子たちへの気持ちは変わらないのだ。

1日も早く、寮生活に馴染めるといいな。タクミへのエール。

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