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2017年4月 5日 (水)

桜の前に

最近知り合ったある女の子が、昨日自ら命を絶った。
まだその事実を受け入れられない。でもどうすることもできないこの気持ちをここに絞りだすことは自分にとって必要だと思ったので、ペンをとることにした。

彼女と知り合ったのは数ヶ月前のことだった。笑顔のかわいい女の子だった。彼女はいつも顔をくしゃくしゃにして笑った。それを見ると思わずこちらまでにっこりしてしまうくらいに。幸せのおすそ分けをもらったような気になった。
そんな彼女は人一倍面倒見がいい子だった。大好きな彼氏に寄り添っては、その姉さん女房っぷりを発揮するのが常だった。将来きっと幸せなご夫婦になるだろうというのが、約束されているみたいだった。
いつだったか、ふたりの将来のためにと頑張って貯金をしているという話をしてくれたことがあった。そのためにと毎日彼のために愛妻弁当を作っているという話も。
その初々しい感じというか、可愛い感じというか、なんともいえなくて、思わずふたりを応援したくなった。
そんなふたりの唯一の楽しみが、月に一度うちの店に来ることだった。
彼女は決まって可愛い色のカクテルを注文した。20代前半の子にとってはカクテル一杯の値段は決して安いものではないと思う。でもこのときばかりはと、ふたりは羽を伸ばした。そんな彼もいつもは我慢しているタバコをここぞとばかり、おいしそうにふかすのだった。
そういうふたりの絵はほんとうに見ていて微笑ましかった。

ところが先週の土曜日に会った彼女はいつもと感じが違った。別人になったかのようだった。黒い影を背負っているみたいにも見えた。
その日はしっかり者の彼女にしてはめずらしく、酔いつぶれるまで飲んでその後彼を残したままひとり帰って行った。そのとき何かものすごい胸騒ぎがしたのを覚えている。
でも絶対大丈夫!と自分が彼女に代わって自分を立てなおすかのように、何度も何度も心の中で唱えた。

でも…
自分は彼女になんかなれなかった…。彼女の苦しみさえも理解することはできなかった。
ただひとつ思うのは、彼女は寂しかったということだけ。その寂しさは誰にも理解できないものだと思う。
だから最後の最後にそれを絞り出して、この世を去っていったのかも知れない。

そんな彼女の死にいろいろ言う人間もいるだろう。何もしてあげられなかったと悔やみ続け自分を責め続ける人間もたくさんいるだろう。

何を言ってももう彼女はいない。
それが現実なんだ。それだけなんだ。

満開の桜を見ずに逝ってしまったひとりの女の子…。
そしてこれからもこの桜を見るたびに、彼女のことを思い出さなきゃいけなくなるんだ。
そう思うと、人生はなんとも過酷なものだ。
それが生きていく人間の使命なんだろうけど。

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